■検証134・犀角独歩氏の「戒壇の大本尊」再造説は誤りである2

 

□「火災や戦災があったから焼失した」という犀角独歩氏の説はあまりにも短絡的な誤謬である

 

実は、大石寺は長い歴史の中で、何度も火災に遭遇している。記録に残っているものだけでも、これだけあるのである。

 

■火災

寛永81631)年1012日 大石寺諸堂焼失(大石寺文書)

文化41807)年512日 大石寺塔中理境坊焼失(大石寺理境坊棟札)

□安政51858)年525日 大石寺遠信坊・寿命坊・寶林坊・学寮四箇焼失(日霑上人伝)

□万延元(1860)年225日 大石寺石之坊より出火、富士見庵・寿命坊・遠信坊・学寮焼失(本尊裏書)

□元治21865)年228日 大石寺客殿・六壺・大坊焼失(日霑上人伝)

慶応元(1865)年1223日 大石寺蓮葉庵焼失(日霑上人伝)

明治421909)年68日 大石寺塔中百貫坊焼失(白蓮華416号)

□大正131924)年1031日 大石寺塔中本境坊焼失(院二二五)

昭和51930)年64日 大石寺塔中本境坊焼失(院257号)

昭和81933)年1023日 大石寺蓮葉庵焼失(宗報A37号)

□昭和201945)年617日 大石寺大坊(対面所・大奥・書院・六壺)・客殿等五百余坪焼失(大石寺文書)

 

■戦災

1569(永禄12)6月、大石寺13世日院の代に起こった、甲斐国・信濃国の戦国大名・武田信玄軍の侵攻

 

この中でも1865(元治2)228日に起こった火災は大惨事となった。

日蓮正宗大石寺52世法主・鈴木日霑の自伝本「霑上御自伝(霑師履歴)」によると、

 「二月廿八日ノ夜半大坊ノ下男部屋ヨリ出火シ構内一宇モ残ラズ焼亡スト 是ヲ聴キ大愕悲動(たいがくひどう)シ遽(にわか)ニ東行ヲ止メ直チニ帰山ヲ計ル」(富士学林教科書「研究教学書」より)

 とある。夜半に下男部屋から出火して、客殿・六壺・大坊など残らず焼失したのであった。このとき前法主の第五十二世日霑は何らかの特別な事情があって、二月初めに大石寺を出発して江戸に滞在中であったが、大火災の惨状についての報告を受けて驚き、急いで帰山したという。

52世日霑


この元治二年の大火災と当時の法主・日盛について、日蓮正宗大石寺66世法主・細井日達は

 「第五十三世日盛上人の代になりますと、『元治二年乙丑年二月二十八日 客殿・六壺・大坊焼失(年表)』と、せっかく今まであった大坊も全部焼けてしまったのです。そのため、日盛上人は御隠居なされたのです。それからまた、霑尊が 再び猊座へつかれた」(「総本山大石寺諸堂建立と丑寅勤行について」より一部 抜粋)

と言っているように、火災の責任をとって大石寺53世日盛が退座・隠居し、大石寺52世日霑が再び法主の座に登座している。

 

昭和201945)年617日の火災というのは、太平洋戦争で大石寺書院が軍部に徴用され、その書院から出火して大坊対面所、大奥、書院、六壺、客殿を焼失し、大石寺62世鈴木日恭法主が焼死してしまったことで有名な、あの火災である。この火災で鈴木日恭法主は焼死してしまったが、大石寺宝蔵に格蔵されていた「戒壇の大本尊」なる板本尊は、全く無傷であった。

 

そもそも「火災があったから焼失した」という説は、研究者の説としては、あまりに短絡的で幼稚すぎるものがある。仏教各宗派の寺院では、火災や戦災があったときは、それこそ貫首・僧侶は先師から伝承する重宝を、それこそ命がけで護るというのが常識である。

そのために、上古の時代における耐火・耐震建築である土蔵造り(蔵造り)の宝蔵を建てて、その中に重宝を納めたり、土蔵の周囲に囲いを造ったりしている実例は多数見られる。

元治元年(1864)7月の「蛤門の変」で、京都・本能寺の堂宇が焼け落ちているが、このとき、本能寺86代日高が、開祖・日隆の木像を背負い、日蓮の御影像は庭前の蓮池に一時沈めて、東山・東漸寺に避難したことが冊子「本能寺」に載っている。

京都本能寺は開創以来、たび重なる焼き討ち、「応仁の乱」「天文法華の乱」「本能寺の変」「蛤門の変」などの戦災、京都大火などの火災にあい、現本堂は7度めの再建によるものだが、そういう中を、数多くの重宝を今日に伝えている。

昭和201945)年の東京大空襲で池上本門寺の堂宇はことごとく焼失してしまっているが、燃えさかる大堂の中から、正応元年(1288)6月造立の日蓮御影像が救出されている。

同じく東京大空襲で、東京・芝の増上寺も伽藍のほとんどを焼失したが、秘仏・黒本尊をはじめ数多くの重宝は戦災を逃れて、今日に伝承している。

こういう実例は、日本全国各地の仏教寺院に多数ある。こういう実例を見逃して「火災や戦災があったから焼失した」などと唱えている犀角独歩氏の説は、あまりにも短絡的であり、甚だしい誤謬と言わざるを得ない。

犀角独歩13