■検証50京都・奈良仏教界をモデルに「戒壇の大本尊」を偽作した大石寺9世日有4

 

「戒壇大本尊」大石寺9世日有偽作に大きな影響を与えた法隆寺夢殿秘仏・救世観音立像

 

それではなぜ、日蓮正宗大石寺9世法主日有は、法隆寺本尊や延暦寺本尊をモデルに「戒壇の大本尊」なる板本尊を偽作したのか。それは、日蓮在世の時代から、日蓮一門には、聖徳太子崇拝、伝教大師最澄崇拝の思想があるからだ。それは日蓮の遺文(御書)に明らかである。

「南岳大師 観音の化身なり道宣の感通伝に出づ 六根浄の人日本の上宮太子是なり」

「天台大師 日本に伝教大師と生まる」(御書全集p1093)

「聖徳太子は用明の御子なり…南岳大師の後身なり 救世観音の垂迹なり」(御書全集p1098)

「伝教大師 …天台の後身なり」(御書全集p1100)

 

これは日蓮の遺文(御書)「和漢王代記」の記述で、これは日蓮真筆が、大石寺の近所にある富士門流本山寺院・西山本門寺に格蔵されている。日有の時代、大石寺と西山本門寺は交流があり、この遺文(御書)は大石寺9世日有も目にしていたはずである。こういった日蓮一門の聖徳太子崇拝、伝教大師最澄崇拝思想からすれば、法隆寺本尊、延暦寺本尊をモデルにすることは、必然的に起こったことと言えよう。

そもそも大石寺9世日有は、「戒壇の大本尊」なる板本尊を、日蓮に見立てて、「戒壇の大本尊」=日蓮=本仏という教義まで発明し、人間の等身大に造立した板本尊である。その等身大に造立された秘仏本尊として、あまりにも有名なのが、世界最古の木造建築寺院・法隆寺の夢殿の本尊で、聖徳太子の等身大に造立されたと伝承する救世観音立像である。この救世観音像は、像高が約179センチ。聖徳太子の等身大の像と伝承されている。どういうことかというと、聖徳太子・救世観音後身説、つまり救世観音=聖徳太子という思想から、まさに聖徳太子そのものの像として、聖徳太子の等身大に造立されたというわけである。

救世観音立像は、623(推古31)年、聖徳太子入滅の翌年に造立されたと伝承されている仏像で、737(天平9)に、法隆寺夢殿の本尊として祀られている。その後、数回、開扉されたことが法隆寺の記録に見えるものの、数百年間は絶対秘仏として法隆寺に伝承されてきた。

それが1884(明治17)年、諸堂並びに古書画調査のためにやってきたアメリカ人フェノロサ、ビゲロー、岡倉天心らが法隆寺に来寺し、彼等の要求により絶対秘仏だった救世観音像が数百年ぶに開扉されたことは、あまりにも有名である。このとき、フェノロサと岡倉天心は、仏罰が下るとおそれる法隆寺の僧侶たちを説得して、無理矢理に開扉せしめ、救世観音立像との対面を果たし、その美を世に伝えた。

救世観音1
 

(奈良法隆寺夢殿の救世観音像)

法隆寺4夢殿
 

(奈良法隆寺夢殿)

 

 

救世観音立像は、フェノロサと岡倉天心によって開扉されるまでの数百年間、一度も開扉されたことがない絶対秘仏であったが、その存在そのものは広く知れ渡っているほど有名であった。

前出の日蓮遺文(御書) )「和漢王代記」にも

「南岳大師 観音の化身なり道宣の感通伝に出づ 六根浄の人日本の上宮太子是なり」(御書全集p1093)

「聖徳太子は用明の御子なり…南岳大師の後身なり 救世観音の垂迹なり」(御書全集p1098)

との記述が見えることから、日蓮もその存在を知っていたと思われ、「和漢王代記」が大石寺の近所にある西山本門寺に格蔵されていることから、大石寺9世日有も救世観音のことは知っていたと思われる。又、大石寺9世日有は1432(永享4)年に京都天奏を行っているが、奏文を天皇の元に届けてもらうための伝奏を行ってもらうため、比叡山延暦寺、園城寺、東大寺、法隆寺、京都五山、南都六宗の大寺院を訪ねたと思われるので、そういう中で、救世観音立像の詳細を知り得たと考えられる。

「等身大の仏像など、どこにでもあるだろう」と思われるかも知れないが、そうではない。

仏像の高さは、「丈六」(じょうろく)といい、16(4.85メートル)のことを、略して丈六と言う。

これは、釈迦牟尼の身長が16尺(約4.85メートル)あったというところから仏像は16尺の高さの仏像に造立するのが基本とされた。座像の場合は半分の8尺に作るが、それも丈六といい、また、丈六より大きいものを大仏という。

ただし丈六とは言っても、その高さは時代によって異なる。中国・周の時代の周丈六(しゅうじょうろく)は、通常の丈六の約4分の3位です。周丈六で測ると人間の倍の寸法が丈六となり、仏像の坐像と人間が立った大きさが、ほぼ同じになる。こういう中、救世観音立像が聖徳太子の等身大に造立されたというのは、特別の意味があるわけである。

さて、この救世観音立像には、他にも特徴がある。

楠木の一木造りでできており、さらに漆加工が施され、像に金箔が貼られているのである。

「等身大」「秘仏」「楠木」「漆」「金箔」ということを聞けば、これと共通するものが日蓮正宗にあることがわかる。それは日蓮正宗大石寺にある「戒壇の大本尊」なる板本尊である。

いずれにしろ、日蓮一門の聖徳太子崇拝、伝教大師最澄崇拝思想により、比叡山延暦寺根本中堂の伝教大師最澄自作の秘仏・薬師如来立像。法隆寺夢殿の秘仏本尊・救世観音立像が、日有の「戒壇の大本尊」偽作に大きな影響を与えたものと考えられるのである。

法隆寺14
 

(奈良法隆寺)

9世日有4(諸記録)
 

(能勢順道氏の著書『諸記録』に載っている大石寺9世日有の肖像画)