1990年代のころ、元創価学会員・元法華講員である著述家・美濃周人氏が、「家庭内宗教戦争~お前は誰の女房だ」「謎の日蓮正宗・謎の創価学会」「日蓮正宗・創価学会・100の謎」「日蓮正宗・創価学会・謎の大暗黒史」「虚構の大教団」という名の日蓮正宗批判・創価学会批判の書籍を出版したことがあった。「家庭内宗教戦争~お前は誰の女房だ」は、美濃周人氏が「宗創戦争」開戦前の宗創和合時代に、夫人の折伏で創価学会に入会。そして宗創戦争ポッ発で、夫婦そろって創価学会を脱会し法華講に入る。所属寺院の機関紙発行を担当。大石寺法主認証の法華講支部役員・幹事に任命。ところが美濃周人氏が所属寺院住職と意見が対立。住職の高慢な態度に嫌気が差して夫婦そろって日蓮正宗を離檀するという物語。この本は、自身の信仰体験からの日蓮正宗批判、創価学会批判のスタンスをとっており、このスタンスはまことに的を得たリアルなものがあり、私も感銘を深くして読んでいた。私はこの本は、近年まれに見る名書であると思う。
その後は、美濃周人氏は「謎の戒壇本尊」「謎の血脈」をテーマに、大石寺の「戒壇の大本尊」「血脈相承」の真実を追究する旅に出る。そして鋭くそのナゾに迫っていく。かくして自ら「戒壇の大本尊」「唯授一人血脈相承」の謎を追究するため、自分で寺院を訪ね歩き、自分で調べて検証するという方向性も、当を得たものであると思う。「謎の日蓮正宗・謎の創価学会」「日蓮正宗・創価学会・100の謎」あたりでは、身延山久遠寺、北山本門寺等の寺院を訪ね歩き、そこで見聞したこと、僧侶から聞いた話を執筆している。その後は、美濃周人氏よりも以前に日蓮正宗・創価学会を離檀・脱会した人たちが、美濃周人氏にさまざまな資料を提供。美濃周人氏も次第にそれらの資料に傾斜していくようになる。どうもこのあたりから、美濃周人氏の方向性が、あらぬ方向に脱線していったように思われる。その脱線が最も顕著に出たのが「虚構の大教団」である。
まず第1に、美濃周人氏は「虚構の大教団」以前の著書では、「謎の戒壇本尊」という題名に象徴される如く、大石寺の「戒壇の大本尊」について偽作説を導き出すものとばかり思っていた。ところが美濃周人氏が「虚構の大教団」で結論づけたのは、何と「戒壇の大本尊」レプリカ説であった。これには、私も驚いた。それだけではない。美濃周人氏が唱える「戒壇の大本尊」レプリカ説は、日蓮正宗正信会・妙真寺元信徒を自称する「ジョージ左京」なる人物が、妙真寺住職・山口法興氏の説法を根拠としたもの。つまり、1980(昭和55)年前後のころ、山口法興氏が「戒壇の大本尊」レプリカ説を唱えていたというものである。山口法興氏の生前、この件について山口法興氏に問い糾したことがあるが、「戒壇の大本尊」レプリカ説を全面的に否定していた。ただし史上はじめて「戒壇の大本尊」の科学鑑定を要求したことは評価できる。
第二に、「虚構の大教団」をはじめ、美濃周人氏の著書には、教学的な間違いが非常に多く、所々で目立つということがある。これは美濃周人氏自身が、日蓮正宗教学、日蓮教学を研究してきた期間が短く、仏教教学、日蓮教学を消化しきれていない所から起因しているのではないかと考えられる。美濃周人氏が、「ジョージ左京」なる人物が提供したとされる「ガセネタ」をはじめ、周囲の人たちから寄せられた資料や情報に、振り回されてしまっているのも、同じ原因ではないかと思われる。こう言った点は、まことに残念と言う以外にない。
第三に、「二箇相承」「日興跡条条事」偽作説に触れているのはいいとしても、教学的間違いが多いということ以外に、美濃周人氏が「百六箇抄」「本因妙抄」「本尊七箇相承」「本尊三度相伝」「産湯相承事」「日蓮本仏義」「大石寺・日蓮墓・日蓮骨」について、全く触れていない。これでは、大石寺「唯授一人血脈相承」偽作説の論旨が中途半端で終わってしまい、説得性に欠ける。
第四に、日蓮本仏義については全く触れていない。これは著書に欠けている部分である。
第五に、「誰が、どういう動機で偽作したのか」「誰が、どういう動機でレプリカを製作したのか」について、全く言及していない。これについても、美濃周人氏の教学展開を、説得力に欠けたものにしてしまっている。まことに残念な結果に終わったと言わざるを得ないのである。
第六に、教義・教学以外の日蓮正宗、創価学会の信者の信仰活動についての問題点(強引な布教活動、カネ集め、無理な活動、僧侶の修行と信者の信行を混同等々)について、全く触れていない。これも残念である。
第七に、美濃周人氏は著書「虚構の大教団」の中で「自分自身に対する怒りだ。日蓮正宗や創価学会に怒りを感じていないといえば嘘になる。しかしぼくは、本当は日蓮正宗や創価学会など、相手にしたくない。できるなら遠ざかりたい。自分自身の心の弱さというかそういうものが相手だ。その心の弱さに対する怒りだ。そのためにぼくは今、原稿を書いているし、これからも書く」
「これからも人の心の隙間を狙って、あやしげな宗教はどんどん生まれる。そしてどんどん人を騙す。そしてその騙された人は、一抹の幸福感と引き換えにに、魂を奪われ、そしてそして自分の人生そのものを棒に振ってしまう。そういう愚人は、ぼくたち夫婦だけでたくさんだ。こんな愚劣な経験を、二度と子どもたちに経験してほしくない。させたくない。だから書く。これからも書く」
(美濃周人氏の著書「虚構の大教団」p177~178)と、書いているにもかかわらず、なぜ美濃周人氏は、「虚構の大教団」を最後に、日蓮正宗批判、創価学会批判の出版活動を止めてしまったのか、ということだ。実は、「虚構の大教団」に関連して、英昭彦の周辺で、こんな事件があった。
2003年ころ、インターネットで、「虚構の大教団」の存在を知った英昭彦は、「虚構の大教団」を買おうとしたが、どこの書店も取り扱っていなかった。取扱書店の中に日蓮宗新聞社が出ていたので「虚構の大教団」を取り扱っていないかどうか、日蓮宗新聞社に問い合わせてみた。すると僧侶らしきS氏という人物が応対に出てきて、日蓮宗新聞社に「虚構の大教団」の在庫があるとの返答。ところがS氏は、つづけてこんなことを言う。「(虚構の大教団は)あることは、あるんですけれどもねー。しかし、あの本はですねー、創価学会を批判しているんでねー。ちょっとねー、えー、創価学会批判しているというのは、ちょっとねー」「いえいえ、ですから、『虚構の大教団』という本が、創価学会批判をしていますんでねー、えー、ちょっと、取り扱いがきびしいんですよ。えー」
「創価学会批判をしているから、(虚構の大教団の)取り扱いが厳しい(?)」
「えー、そこなんですよー」…と、はっきりしたことを言おうとしないが、言外に、「虚構の大教団」という本が、創価学会批判をしている本だから、在庫はあるんだが、日蓮宗新聞社での取り扱いが厳しい、などと言っている。日蓮宗新聞社のS氏の言に憤激した私は、ふがいない返事しかしないS氏をかなり厳しい口調で抗議し、叱責した。するとこのS氏、私の叱責に何ら反論することもなく、「はい、そうですね。おっしゃるとおりです」と、完全に平身低頭。後日、S氏は「虚構の大教団」を1冊、私の手元に届けてくれたのである。S氏が私に語った内容は、「虚構の大教団」の出版に対して、創価学会が出版圧力を加えていることを、実質的に認める内容になっている。
2012年7月9日付けのブログで、こんな美濃周人氏の弁明を見つけた。
「ただ女房が、もうそっとしておいてほしいと言っていますので」
「最前線の育児論byはやし浩司(Biglobe-Blog)」
https://blog.goo.ne.jp/bwhayashi/e/399e31c33c9d4e48095f749c03736f08
その後、英昭彦は2018年4月8日、「アンチ日蓮正宗・アンチ創価学会・アンチ顕正会・正信会」のブログで、「虚構の大教団に書いてあることが本当なら、美濃周人氏は出版を再開すべきだ」と勧告した。その後、2019年3月26日、YouTubeの「Hiroshi Hayashi」チャンネルに「謎の大石寺+謎の大本尊by美濃周人」との動画がアップロードされているのを見つけた。しかしこの動画は「虚構の大教団」のページを紹介しているだけで、新事実、新情報、新検証はない。さまざまな事情はあるかと思いますが、私は、美濃周人氏の著書の教学的誤謬、ガセネタを元にした論旨を除けば、深く感銘して読んだ者の一人である。私は、再び美濃周人氏に「虚構の大教団」の言が本当なら、今再び日蓮正宗批判、創価学会批判の出版活動を再開すべきではないかと、勧告したい。
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